鴨志田一『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』の感想文
2019年の秋は、アニメ好きの20代前半の人間にとっては待望のシーズンだと思う。
僕たちの世代は、深夜アニメの人気が爆発的に拡大する時期に学生時代を送った。
そのため、かなり幅広いタイプの人間がアニメという娯楽に日常的に触れていたのではないだろうか。
そんな僕らの世代が中学高校に通っていた頃に、人気だった深夜アニメの超人気タイトルの続編が放送されているからだ。
『とある魔術の禁書目録』シリーズと『ソードアートオンライン』シリーズの続編。
学生時代に友人に勧められてアニメを見ていた僕にとっては懐かしい二作だ。
大学に入ってからはあまりアニメを見ていなかった僕だが、ワクワクして秋を迎えた。
だが、12月の今、意外なことに今期一番僕を楽しませてくれるアニメは、この二作ではなかった。
『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』という出落ち感満載のタイトルを聞いて最初は躊躇っていたのだが、周りに繰り返し進められて見てみると一瞬でハマってしまった。
そして一昨日にはついに、原作ノベルにも手を伸ばしてしまった始末だ。
ということで今日は、鴨志田一の『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』の感想を書いてみようと思う。
話の筋は、ぶっちゃけよくある話だ。
主人公の男子高校生の周囲に、トラブルに悩まされている女の子たちが現れ、それを助けて関係が深まっていく。
本作の特徴を挙げるとしたら、そのトラブルの中身だろうか。
ヒロインたちは、「思春期症候群」と名付けられた不思議な現象に悩まされる。
症状は様々で、人々から見えなくなってしまったり、今日を繰り返し明日に進まなくなったり、自分が二人になったり…
共通するのは、それが彼女たちの思春期特有の悩みに直結しており、精神的な要因が大きいということ。
怪奇現象に悩むヒロインの少女たちは、自分の身に起こる「ありえない」出来事を家族や友人にもなかなか相談なんてできず、結局は主人公の男の子の手で救われる。
「思春期症候群」というアイデア自体はなかなか興味深いが、作品全体のプロット自体は割と普遍的な本作がどうしてこうも面白いのだろう。
まず、理由の一つはアニメ版の質の高さだろうか。
アニメーションの絵がきれいで、豪華な声優陣が演じるヒロインたちは誰もが可愛らしいキャラクターだ。
実際僕自身、アニメが入口なわけで、アニメとしての魅力が素晴らしいというのは一つの理由だ。
だが、それだけじゃない。
僕が本作を気に入った理由は原作のライトノベルを読んでよく分かった。
この作品は、全体的に軽いタッチで、青春の明るい側面を映し出しているのに、
視座が闇の中だからだ。
青春という光を、暗い日陰の視点から描いている。
青春の暗い側面を描く話はよくあるが、この話はそうではない。
あくまで描かれているのは明るいところ。
ただ、その明るいところを眺めている視点がどうしようもなく暗闇で、
10代の思春期特有の悩みがギュッと凝縮されている。
僕は、20歳を過ぎて、いくらか精神的に成長し、人間関係とかにも多少余裕を持った考えができるようになったと思う。
しかし、この本を読んでいる最中は、
数年前の高校時代に引き戻されて、
今よりもっと不器用な、些細な悩みに真剣に苦しんでいた頃の僕になって物語を鑑賞させられる気分になる。
たぶん、誰だって思春期には人それぞれの悩みがあって、でもそんな悩みは今となっては黒歴史で思い出したくもない。
『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』は、そんな僕らを無理やり思春期に立ち返らせる。
余談
『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』のアニメのOPを歌っているのは、三人組ガールズバンドのthe peggies。
このバンド、なかなかいいんですよ。
メジャーデビューをしてからまだ一年ほどしかたっていないため知名度はいま一つだが、アニメとのタイアップもあってこれからどんどん人気になっていくと思う。
僕のお気に入りガールズバンドの一つなので、これを機に皆さんにもぜひ聞いてもらいたい。