東大文学部の読書感想文

東大文学部。好きな本や最近読んだ本の感想を書きます。ニュースや本屋で目にした、本にまつわる気になる事も。

新しい物語のデザイン「チャットノベル」

チャット小説チャットノベルという言葉聞いたことありますか??

 

毎日使うLINEの画面を想像してほしい。

スマホを用いて、チャット形式の画面で物語が進んでいく。

それがチャット小説だ。

 

タップやスクロールで次々に新しいチャットが表示されて、

友人や恋人とのLINEの会話を見返すように、物語が読める。

 

普段、書籍の形でしか物語を読まない僕としては、想像もつかない分野なのだが…

どうやら日に日にその勢力を拡大中とのこと。

 

現に、僕が、今、チャット小説に言及しているのも、

塾講師のアルバイトをしている友人から、

「教え子の高校生にスマホアプリで読めるチャット小説が面白いと勧められた」

というエピソードを聞かされたからだ。

 

僕も、その友人も、ネット上でそうしたアプリの広告を目にしてことはあるので、チャット小説の存在自体は知っていはいた。

ただ、イメージがピンとこなくて、縁遠いものだと思っていた。

 

しかし、食わず嫌いは良くない。

せっかくの機会だと思って、チャット小説を読めるアプリを落としてみた。

(けっこう無料で読めるものもある)

実際に読んでみると、確かに読みやすい

 

 

たぶん、少し前までは活字を読むというと、書籍や新聞、雑誌など印刷されて縦書きのものだった。

 

そして、パソコンや携帯電話が普及すると、Webサイトやメールなどで横書きの文章を目にする機会が増えてきた。

このブログだって同じだ。

1000年以上前から縦書きで書かれてきた日本語が、英語と同様横書きで書かれているが何の違和感もない。

 

さらにここ数年、スマホでのチャットアプリの使用率が相当高くなった。

おじいちゃんおばあちゃんとのやり取りすらLINEを使う時代だ。

おそらく、今の中高生にとって一番目にする活字ってチャット形式で書かれたものなんじゃないだろうか。

そうなると、チャット画面の体裁で書かれた活字が自然なものとして受け止められる。

普段小説をよく読んでいて、中高生時代はまだメールが中心だった世代の僕ですらチャット画面には慣れ親しんでいる。

その慣れた形で物語が読めるチャット小説を「読みやすい!」と感じることも理解できる。

 

 

活字を読むという行為は、同時に活字を見る行為でもある。

視覚に頼って情報を摂取しているんだから、デザインが重要な役割を持つのもよくよく考えれば当たり前だ。

旧来の?書籍という形で物語を作り出す作家でもデザインにこだわる人はいる。

京極夏彦が、ページをめくる際に文章をまたがないようにするという話は有名ではなかろうか。

 

チャット小説も同じ理屈だ。

今の若い世代にとって視認しやすい活字表現のデザインがチャットだということだ。

 

現状では、読者層の趣向とチャットという形に制約故か、チャット小説は学園恋愛モノとホラー作品が中心だ。

だが、現代日本では20代も30代も、さらにはもっと上も、チャットアプリにどっぷり依存している。

そんな大人たちの中で、チャット小説って読みやすいよね、という感覚が広まるのも時間の問題のような気もする。

そうすると、ジャンルの偏りもなくなり、さらにチャット小説が盛んになる日がくるかもしれない。

 

 

もしかすると、1年後のあなたは、チャット小説を当たり前のように楽しんでいるのかもしれない。

佐藤義典『ドリルを売るなら穴を売れ』の感想文

佐藤義典『ドリルを売るなら穴を売れ』

 

 

ドリルを買う人が欲しいのは果たしてドリルなのか。

 

答えは、NO

 

もしかしたら、自宅に様々なドリルを並べて鑑賞するという世にも珍しい趣味の人もいるのかもしれない。

ただ、ドリル購入者の99%以上は、そのドリルで穴をあける。

ドリルじゃなくて、その穴が欲しい。

穴が欲しいから、ドリルが必要になって買う。

 

 

こんな感じで、マーケティングの超基礎を説明してくれるのが、今日紹介する『ドリルを売るなら穴を売れ』

 

もう10年くらい前に発売された本書だが、今でもマーケティングを学ぶ多くの人にとって入口になる。

マーケティングとかに関わる若いビジネスパーソンとか、ビジネスを勉強したい学生とかがよく読んでいるイメージ。

実際に僕も、とあるWebサイトを運営している会社でインターンをしていた時に課題図書として渡された。

 

 

小説を中心に感想を書いているこのブログで、どうしてマーケティングの入門書なんて紹介するのか不思議に思う人もいるかもしれない。

マーケティング分野に興味がある人なら僕が紹介するまでもなく知っているだろうから、わざわざ取り上げるまでもないかもしれない。

 

ただ、僕は、

「普段の生活や仕事でマーケティングなんて関係ないよ!」

って人にこそ、この本を読んでほしい。

 

理由は2つ。

  • 物凄くカンタンなことしか書かれていないから。
  • この本を読むと実生活がめちゃくちゃ楽しくなるから。

 

 

まず、一つ目の理由。 

この『ドリルを売るなら穴を売れ』という本には小難しい話は全然出てこない。

 

実際に自分で何かを購入するときに、何を考えていますか?

その時に自身の頭の中で起こっていることこそがマーケティングのメカニズムですよ。

 

というのが本書の主旨だ。

 

自分が買い手となるときのことを想定しながら、マーケティングを考えてみようという本。

だから、本書で取り扱う専門的な理論はかなり厳選されている。

 

  1. ベネフィット
  2. セグメンテーションとターゲティング
  3. 差別化
  4. 4P

 

本書で紹介されている理論は、この4つだけ。

4つだけなら、なんとかなりそうでしょう?

 

もしかすると、少なくてない?と不安になるレベルだけど、マーケティングの核の部分が取り出されているので、入門という段階ならこれで十分なのだろう。

そして、その4つの理論も小説仕立てのストーリーで、感覚的に理解できるように説明されている。

 

仕事をするうえでこの本に書かれていることを実践しろと言われたら難しい。

だけど、「マーケティングってこんなもんなんだな」と何となくの理解をするのなら容易い。

おそらく高校生とかが読んでも、全然ついていける。

 

 

そして二つ目の理由。

この本の内容がおぼろげにでも掴めると実生活が楽しくなる

 

これは僕の体験に基づく感想だ。

 

先ほどインターンを“していた“という話をしたが、これ過去形ですよね。

そう。今はもうしていないんです。

だから、ぶっちゃけると今の僕の生活でマーケティングを意識する必要ってあまりない。

何かを売らなきゃ!

サイトのPV増やさなきゃ!

という状況ではない。

このブログのPV自体は増えてほしいけど…(笑)

 

ただ、身の回りには「マーケティング」が溢れている

このブログサイトに表示される広告だってマーケティングだし、

毎日乗る電車のつり革広告も、Twitterに流れてくるプロモーションツイートもまた然り。

今日の昼間に書店で本を購入したときだって、近所のパン屋で朝ご飯を買ったときだってそうだ。

日常のあらゆる買い物の裏に、買わせようとした売り手の存在が見えてくる。

 

この製品を作った会社は、この理論、この考え方で、こんなパッケージにしたのかな。

なんて想像するといつもの買い物が楽しいものになる。

 

マーケティング理論を使う場面なんてない!

と思っているあなたにこそ読んでほしい。

あなたの生活がいかにマーケティングに囲まれているかが分かるはずだ。

同じ場所を歩いていても、見える景色が変わってくるかもしれない。

 

 

 

ドリルを売るには穴を売れ

ドリルを売るには穴を売れ

 

 

中村文則『教団X』の感想文

中村文則『教団X』

 

 

この小説の感想を語るのは非常に難しい作業になる。

読み手の評価も極端になりがちだ。

 

理由は3つある。

  • まず、「宗教」という難しい題材だから。
  • そして、性的な描写があまりにも過激だから。
  • 最後に、あまりに思想的な語りの部分が多いから。

 

そのため、読んだ人の感想もまちまちになる。

5段階評価をするなら、☆1と☆5に超極端に分かれると思う。

「それなりに楽しめる良作だったね」なんて感想を抱く人はあまりいないはずだ。

 

 

まず、宗教というテーマについて。

 

宗教というのは非常に難しい。

非科学的で怪しい雰囲気がするとか、カルト宗教の悪評とか、

取り扱い注意のレッテルが貼られて、真面目に議論するのは危険だ。

だから、みんな、宗教の話はしないし、宗教を学問として捉え学ぼうともしない。

 

そういう日本社会において、この作品はどう読み取るのが良いのだろうか。

といいつつ、僕も宗教学を専門的に学んでいるわけではない。

この半端な知識で偉そうに感想なんて書こうものなら、

どこで間違え、どこで大きな地雷を踏みぬくか分かったもんじゃない。

だからといってビビッて何も言わないというのもつまらない。

 

この本で物語となるのは二つの宗教。

両方とも、開祖は存命で新しい宗教。

一方は、寄り合い的な感じで教祖?の老人のお話を聞くだけ。

もう一方は、宗教施設に信者が集団で暮らすカルト教団

カルトという言葉も繊細で使い方には注意がいる言葉だが、この場合はカルトと呼んで問題ないでしょう。

こうした対照的な教団を読者に示しながら、私たちにとって、信じるって何なのかと問いかけてくる力がこの作品にはある。

 

何かを信じる作中の人物たちは、僕たち読者と何が違うのか。

もちろんこの問に正解なんてない。

けれど、中村文則は強く踏み込んで『教団X』を書ききった

 

 

 

そして、過剰な性的描写について。

 

こんなに露骨に書く必要があるのか?という感想が多く寄せられている。

たしかに言いたいことはわかる。

かなり過激だ。

 

ただ、僕は書く必要があると思う。

少なくとも、作者にとっては絶対に必要なんだと思う。

 

中村文則は、教団内部の人々が信じることで獲得する異質さの表現を必要としていたんだと思う。

普段日常で、社会とか法律とか経済とか、こういう規範で縛られている僕たち。

ただ、教団の人たちは違う。

こうした規範から解放され、教団の、宗教内部の規範に縛られる。

ここに上下はない。

ただ、従うルール、信じるルールが違うというだけ。

 

そして、規範の違いを明確に示すのが性の分野だ。

たぶん、本能的な行動の中で、現在社会で一番縛られているのは性欲だ。

レイプはだめ。貞操は守るべき。下ネタははしたない。

僕らはこういう規範で生きている。

ただ、作中の信者はそうじゃない。

違う規範で生きているから、性との向き合い方も違う。

だからこそ、僕ら「普通の人」と信者が違う規範を採用していることが鮮明になる。

そのための装置として過激なセックスシーンは必要不可欠なのではないかと思う。

 

 

そして、作中の語りの部分について。

 

ここまで述べてきた宗教の話。

それ以外にも、貧困とか、政治とか、仏教の解釈とか、釈迦の話とか。

本当に色んな話が出てくる。

 

これが、全て中村文則の思想とで結べるのかはわからない。

この熱量をもった語りこそ、本作の本体に他ならないと思う。

 

だから、この小説からは作者本人があまりに色濃く感じ取れる。

フィクションとして、物語として見れなくなる。

中村文則が夜中に一人で内面を書きなぐったんじゃないか。

そう思わせるほどに、ぐちゃぐちゃと作者が透けて出てくる。

 

これが読む人によって違う受け取り方をされる。

 

 

 

 

ちなみに、僕はどっち派閥か。

 

結論から言うと、☆5だ

 

だが、小説としての面白かったかというと微妙なところだ。

単にストーリーやキャラクターの描かれ方を楽しむ、という視点なら平凡な出来栄えに思う。

 

ただ、作者が書きたいことを書きまくった、という点においては本当に楽しめる。

人間が内面を赤裸々に吐露するとき、そこには趣味の悪い娯楽が生まれる。

そういう点でこの作品は最高級のエンターテインメントであると思う。

 

だからこその☆5だ。

 

 

 

教団X (集英社文庫)

教団X (集英社文庫)

 

 

 

 

キンコン西野「印税いらない!!」

「僕のビジネス書なんて、普段の僕の活動の副産物で、僕は普段の活動で食っていけるので、ビジネス書(副産物)の印税なんて1円も要りません」

 

 

キングコングの西野亮広さんの新しいビジネス書『新世界』が発売されました。

 

絵本えんとつ町のプペル、ビジネス書魔法のコンパス 道なき道の歩き方『革命のファンファーレ 現代のお金と広告』など、何冊も本を出している彼。

芸人としてだけでなく、他の分野でもかなりの存在感を発揮している。

ちなみに、『革命のファンファーレ』は知人の勧めで読んでみたが、なかなか面白かった。 

 

 

一応フォローしておくが、決して

「俺は、金あるから印税なんたはした金いらねーよ」

とかいういけ好かない発言なんかではない。

 

「ビジネス書を出すのは、本の売り上げ=印税として収入を上げるよりも、他のことで大きな効果がありますよ。」

という意図の発言だと僕は解釈している。

 

ただ、それでもこの発言はかなり意見が分かれると思う。

 

 

日刊スポーツの記事によると…

  • ビジネス書は副産物だから、印税は無くても問題ない。
  • 新聞の見開き広告に、新刊の前書きを全文公開した。→自著の広告として、自費で行った
  • 新聞広告の効果もなくても、実験として意義がある。

とのこと。

 

www.nikkansports.com

 

 

そして、この記事、西野さんのブログでの発言や告知を下敷きに書かれたものみたい。

ということで、実際にブログを読んでみました。

 

彼の考え方としては、

・ビジネス書の報酬を印税=お金として受け取ること

よりも、

・自身のオンラインサロンの活性化につなげる

・今後のビジネス書のネタになる

など、それ以外のお仕事に発展させる方が大きいと思っているようですね。

 

これ、面白いな。

本を出すってときに、本という製品を売り上げるというポイントだけでなく、他の部分でのマネタイズを考える。

出版物の存在感が低下する現代で、こうやって新しい本の使い方をできる人は面白いと思う。

 

もちろん、作家以前に他の仕事で生活の基盤があり、

なおかつビジネス書の出版を印税以外の形でお金に変えることができる仕組みをすでに持っているからこそできる発言ではある。

 

 

ただ、ブログ内で西野さん本人も言及していたのだが、

「西野は印税もらってない→他の奴ももらうな」

という論理の飛躍だけは絶対に見たくない。

 

あくまで、本を書く人たちのほとんどは、印税という仕組みでお金を稼いでいる。

その中で、自身の他の仕事の都合とか、財力の都合とかで、違うやり方を選ぶ人がいる、というだけ。

 

作家さんたちには、本を書く対価として、印税をしっかりいただいて欲しい。

これが絶対的な前提条件。

 

この前提を忘れない、という約束さえ守れば、これからの本にまつわるビジネスのあり方を考えるヒントになるかもしれない。

 

話はそれるが、自分が書いた本を、note で全文無料公開している人が何人かいる。

もちろん超のつく少数派だが、確かにいる。

正直、常識的に考えれば意味が分からない。

本来有料の本をネットで無料公開するなんてどう考えてもおかしい。

たぶん、この人たちにとっては、本の売り上げによって生じる印税よりも優先したい何かがあるということなのだろう。

それが他の仕組みを活かしたマネタイズの手段なのか、どうしても世の中に訴えたい首長なのか、または全然違う何かなのか。

それは分からない。

 

 

これまでの本というビジネスの発展形として、ちょっと変わった形で本と向き合う人がいる。

そう捉えて、楽しんでいきたい。

 

 

本を読む場所

「どこでもできる」

 

これって、本を読むという娯楽の長所の一つだと思う。

場所も取らないし、周りに迷惑をかけることもない。

特別な道具や施設もいらない。

本を一冊持っていらばそれでいい。

自分が本を読みたいと思えば、その瞬間から読書を始められる。

 

だから、いつでも、どこでも、本は読める。

 

毎日の通学・通勤の行き帰りの電車内だって読める。

運よく、座れた日なんかは一層捗る。

あの電車特有の緩やかな振動が心地よく、目の前の本にいつもより集中できる気がする。

 

ご飯を食べた後に、もう少しゆっくりしたいなってとき。

お店が混雑していなければ、

膨らんだお腹をさすりながら、鞄の中の文庫を取り出して読み進めることもできる。

 

落ち着いたカフェで時間を潰すとき。

これは絶好の読書タイムだ。

まとまった時間をとって、一気に読破できる。

 

夜寝る前の布団の中で、眠気と闘いながらページをめくるときもある。

周囲が騒がしい場所でも、予想外に集中して、活字に没頭してしまうこともある。

 

 

でも、どんな場所でも読めるから。

だからこそ、本を読む場所にはこだわりがあったりする。

「ここで読書をする時間は特に好き!!」

という場所があったりすのではないだろうか。

 

僕は、大学の図書館の前の広場で本を読むのが好きだ。

陽の光が暖かくて、噴水の水の音がして、背後には重厚な図書館の建物がある。

そんな空間での読書は、格別の心地よさがある。

そろそろ寒くなってきたので、これからの季節は外で本を読むのは無理そうだけど(笑)

 

あと、最近のお気に入りは夜カフェ

終電もないような深夜に、ゆったりとした時間を提供してくれるカフェは最高だ。

お酒を飲むわけではなく、ちょっと暗めで静かな店内で珈琲を飲みながら本を読む。

なんだか悪いことをしているみたいな気分になる。

ちょっとわくわくして、楽しい。

 

 

皆さんは、どんなシチュエーションで本を読む時間がお気に入りですか??

 

近所の図書館???

自分の部屋???

お気に入りのカフェ???

松崎洋『走れ!T校バスケット部』の感想文

松崎洋走れ!T校バスケット部

 

 

いまさらだけど、僕は、が好き。

小説が好き。

でも、漫画も好きだし、アニメも、ドラマも、映画も好き。

 

要するに、物語の世界が大好きなんですよね。

フィクションを楽しむなかで、一番好きな媒体が小説ってだけ。

 

映画も好きなのだけど、最近あまり映画館に足を運ぶ機会がない。

公開中のボヘミアンラプソディー」が気になる。

いつまでやってるんだ??

「ファンタスティックビースト」の続編は絶対見たい。

いつからやってるんだ??

そう思って、久しぶりにネットで映画の情報を調べてみた。

 

ついでに他にどんな映画が人気なのかなぁと眺めていたら、

走れ!T校バスケット部という映画に目がとまった。

 

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このタイトル、めちゃくちゃ懐かしい!!

昔、読んだ!!

 

たしか、中学生の時だと思う。

けっこう前に読んだのに内容も意外に覚えている。

 

記憶を蘇らせながら、調べてみたら続編が10巻まで出ていた。

僕が読んだのは、2巻か3巻までだから、そんなに長寿シリーズとなっていたとは知らなくてかなり驚いた。

 

 

この、走れ!T校バスケット部、なかなかタイトルがダサい。

ド直球のタイトルで、theスポ根という雰囲気。

実際、そう。

だけどそれが良い。

 

超強豪校の1年生エース・田所陽一が、連戦連敗の弱小高校に転校してくる。

転校の原因はイジメ。

弱小校に移ってきた陽一はバスケを辞めるつもりだったが、色々あって再びコートに戻ってくる。

それが物語の始まり。

なかなかにコテコテのスポ根ストーリーだ。

 

 

ここだけ取り出すと、往年の名作『キャプテン』を思い出す。

かなり古い野球マンガなので、今の若い人は知らないかも…。

これも、超強豪校から弱小校に転校してくるという構図は同じ。

ただ、転校してきたのは実力不足で強豪チームでは試合に出るどころか雑用係だった落ちこぼれ

それなのに、転校先では凄い選手だと誤解されてキャプテンに選ばれてしまう。

事実と誤解のギャップに苦しみながらも、途轍もない努力で上達し、チームを引っ張る

本物のキャプテンへと成長するというストーリー。

これも面白いのでぜひ読んでみてほしい。

 

 

さて、話がそれたが本作走れ!T校バスケット部は、面白い。

弱小チームの面々も個性的で、作中のバスケの試合の描写もかなり質が高い。

緊迫感が読んでいて伝わってくる。

陽一やチームメイトの成長過程も読み応えがある。

 

青春小説とか、スポーツ小説、好きな人は絶対に楽しめる。

このあたりが好きな人ならハマること間違いなし。

 

 

そして、10代の少年少女が主役のスポーツ小説につきものなのが「大人」の存在。

部活の顧問や、それ以外の学校の先生、両親、外部からくるコーチ…。

こういった「大人」たちが、物語中で大きな存在感を持ってくる。

 

走れ!T校バスケット部は、中でも「大人」が良い味を出している。

元々いた強豪校の顧問、転校先の先生たち、そして父親。

それぞれ立場や関係性が違うから、主人公の陽一に投げかけてくれる言葉も様々だ。

子どものことを考えていないように思える勝ち負けに徹する嫌な「大人」もいれば、

楽しんでスポーツをすることを説く「大人」もいる。

 

これって現実世界でも同じですよね。

皆さんの、周りにいた「大人」はどんな人でしたか。

優しい言葉をかけてくれる先生もいたし、ちょっと突き放してくる父親もいた。

何も言わずお弁当を作って送り出してくれる母親や、大会に応援に来てくれた祖母もいた。

理不尽で嫌いだった顧問の先生もいたし、恐怖の象徴みたいな体育教師もいた。

20代になった今だと、彼ら「大人」も同じ人間だと分かるし、それぞれの立場とかも考慮できるようになってきた。

だけど、中高生の頃は、「大人」は別の生き物に見えた。

 

走れ!T校バスケット部の作中で、陽一たちを取り巻く「大人」たち。

青春を描くスポ根モノで脇役となりがちだが、なくてはならない存在だ。

是非、汗を流す主役の少年だけでなく、彼ら同様、悩み苦しむ人間であるはずの「大人」たちの存在にも目をやりながら読んでみてほしい。

 

 

走れ!T校バスケット部 (幻冬舎文庫)

走れ!T校バスケット部 (幻冬舎文庫)

 

第6回ブクログ大賞は、辻村深月のあの作品に決定!?

ブクログというWebサービスを知っていますか??

ブクログでは、オンライン上で、自分の蔵書を管理したり、読んだ本のレビューができる。

 

そんなブクログのユーザーを中心としたネット上の声をもとに選ばれるのが、ブクログ大賞だ。

 

ブクログ大賞の公式ページによると…、

ブクログ大賞とは、本好きのみなさんで本当におもしろい本を決める書籍大賞です。対象作品の中からブクログで総合評価の高い作品をノミネート作品として選出し、みなさんの投票でそれぞれの部門の大賞作品を決定いたします。

第6回ブクログ大賞[2018]

 とのこと。

 

2009年に始まったこの賞は、2012年の第4回を最後にしばらく休止していたみたいで、昨年から再開し、今年が第6回。

 

小説部門では、

『植物図鑑』・『キケン』・『県庁おもてなし課』・『旅猫レポート』

と最初の4年は全て有川浩の作品が受賞している。

Webサービスを積極的に取り入れる若者からの人気故だろうか。

ちなみに、昨年は恩田陸蜜蜂と遠雷が選ばれている。

 

そして、第6回となる今年のブクログ大賞小説部門を受賞したのは、

辻村深月かがみの孤城となった。

 

昨年の、蜜蜂と遠雷に続き、本屋大賞と同じ作品が受賞することになった。

もちろん受賞作自体が面白いから、それぞれ賞に選出された。

このことに異論はない。

同時に、僕たち読者にとって、本屋大賞がいかに大きな影響力を持っているかが窺い知れる気がする。

 

もっとも、「書店員が売りたい本」と「読者が選ぶ本」が一致しているのは悪いことなんかじゃない。

 

 

ちなみに、今年度の第6回ブクログ大賞の各部門受賞作品は以下の通りです。

 

 ■小説部門 
かがみの孤城』 著者:辻村深月 (ポプラ社)  

■マンガ部門 
アルスラーン戦記』 漫画:荒川弘 原作:田中芳樹 (講談社)

■ビジネス書部門 
『エンジニアリング組織論への招待~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング』 著者:広木大地 (技術評論社) 

■エッセイ・ノンフィクション部門 
『バッタを倒しにアフリカへ』 著者:前野ウルド浩太郎 (光文社)  

■人文・自然科学部門 
『宇宙に命はあるのか 人類が旅した一千億分の八』 著者:小野雅裕 (SBクリエイティブ) 

■海外小説部門 
『13・67』 著者:陳浩基 訳:天野健太郎 (文藝春秋)  

■フリー部門 
『ボクたちはみんな大人になれなかった』 著者:燃え殻 (新潮社)

 

 

→第6回ブクログ大賞の特設ページでは、受賞した作者の方のコメントや惜しくも大賞には選出されなかった他のノミネート作品も見ることができます。

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