朝井リョウ『何者』の感想文
朝井リョウ『何者』
『何者』のキーワードは、就職活動とSNS。
5人のそれぞれ個性的な大学生が、就職活動に挑む様子が描かれている。
- 演劇サークルで脚本を書いていた、観察力豊かな二宮拓人。
- バンドマンで明るいコミュニケーション能力◎の神谷光太郎。
- 留学経験のある真面目な田名部瑞月。
- 典型的意識高い系の小早川理香。
- フリーランス志向でクリエイティブな宮本隆良。
これだけ毛色の違う登場人物5人が揃ったんだから、普通は複雑な人間関係の絡み合いだったり、それぞれの苦悩が深く描き出されていったり、いくらでも物語は進展しそうなものだ。
だが、朝井リョウはそうしなかった。
彼らの個性は全く掘り下げられない。
彼らの、観察力も、明るさも、真面目さも、意識の高さも、クリエイティブさも、全くといっていいほど発揮されない。
なぜなら、そんな個性は最初からないから。
彼ら5人にたぶん本質的な違いはない。
ただ、大学という舞台に、SNSという舞台に出るときにどういうキャラメイクをしたかという違いでしかない。
MMORPGを始めるときに、筋骨隆々で渋い声の剛腕の剣士キャラを作り出すように、彼らは自身の個性を決める。
その個性に従って、行動する。
そしてそのうち、その行動が自身の個性を再規定してしまう。
だから、彼らの個性は薄っぺらい。
これが、実に僕たち若者にとって刺さる。
自分のキャラを意識して、現実世界でも、SNSでも、そのキャラを演じ、常に他者の目を気にして生きている。
そんな自分の生き方が、露骨に描かれている。
読み進めるのが本当につらい。
薄い個性で記号的に描写される彼ら5人は、常に自分であり、周囲の友人・知人である。
吐き気がするほどリアルだ。
自分の持っている(はずの)個性が、作中の登場人物みたく、SNSの自己紹介欄に簡潔にまとめられた具体性を伴わない情報に過ぎないのだと突きつけられる。
恐怖すら感じる。
『何者』は鏡となって自分を映し出す。
本が好き。
漫画や映画も好きで、創作の世界が好き。
ちょっと理屈っぽい。
バカ騒ぎは少し苦手。
人見知りな面もある。
こうした僕を形作っていたはずの個性が、具体性を伴わない単なる記号なんじゃないのかと不安になる。
10代~20代後半の若い読者にはぜひこの本を読んでほしい。
他者の目に映る自身のキャラを意識する、そしてそのキャラが自分をいつしか支配する。
そんな等身大の恐怖を感じられるはずだ。
そして、今も僕は、このブログを書きながらみんなの「いいね」を求めている。