原田マハ『総理大臣の夫』の感想文
原田マハ『総理大臣の夫』
原田マハが『月刊ジェイ・ノベル』(実業之日本社)に連載した本作。
先日、彼女の『暗幕のゲルニカ』を読んだ数日後のこと。
(原田マハ『暗幕のゲルニカ』の感想文も時間があったら読んでみてください。)
神田の古書店街を散策していた時に、
この、『総理の夫』の文庫本が店頭の安売りコーナーの一角に置かれていたので衝動的に購入し、読んでみました。
本作は、日本初の女性総理大臣の誕生と奮闘を、その夫の日記という形で描いた作品です。
『総理の夫』のあらすじ
相馬凛子は少数野党の党首だったが、与党を離れ新党を結成した改革派の議員・原久郎によって連立政権が樹立され、史上最年少、史上初の女性総理に指名される。凛子の総理就任を、無力ながらも精一杯応援しようぐらいにしか考えていなかった鳥類学者の夫・日和は、相馬政権の安泰を画策するプロジェクトチームによって、「理想の夫」「理想の家族」を体現するファーストレディならぬ、〈ファースト・ジェントルマン〉として広報に駆り出されることとなる。(総理の夫 - Wikipediaより)
日記を書く、総理の夫・相馬日和は、大財閥ソウマグループの御曹司で、東大卒の鳥類学者。
初の女性総理大臣に就任する相馬凛子は、最年少開田川(あけたがわ)賞作家の真砥部惇、東大大学院教授で国際政治学を専門とする政治学者の真砥部夕を両親にもち、これも東大卒の政治学者。しかも、美女。
想像が追い付かないぐらいハイスペックな二人は、
女性総理とその夫として世間から大きな注目を集める。
特に、特別国会が召集され凛子が首相に任命される当日には、
新聞各紙の一面に、
「史上初 女性総理誕生へ」
「史上初 最年少の女性総理誕生」
といった見出しが掲げられた。
小説全体では、かなり序盤の何気ないシーンなのですが、
そのあとの、凛子と日和の会話がとても印象的です。
特別国会に臨むその日の朝、
凛子は女性であることばかり騒ぎ立てる世間への不満を漏らす。
そんな凛子に対して、夫の日和は、素晴らしい言葉とともに送り出す。
「僕は、女性が総理大臣になったとは思わないよ」
「君は総理になった。これは必然だ。しかし、君は男性ではなかった。これは偶然だ。そうだろう?」
この日和の言葉を聞いた凛子は美しい笑顔になり、国会へと向かう。
女性は社会的に重大なポストにつくと、
私たちは、その人が女性であるということに注目してしまう。
実際、女性の社会進出は未だ不完全で、
出産や育児に関する現実的な負担や、
旧態依然とした女性軽視の考えをもつ男たちの存在で、
女性はそのキャリアにおいて不利な要素を抱えているケースは多いのかもしれない。
逆境(本当に逆境と当人が捉えているかはともかく)を乗り越えて栄達したことは凄いことで、
女性であることを無視するというのも少し違うのだろうとは思う。
だけど、その人の成功は、あくまでその人の個人の問題。
その女性の成功はあくまで必然。
そして、その成功した人間の性別がたまたま女性だったんだ。
こうした考え方はとても気持ちがいい。
あくまで個人に注目し、
その人に纏わる情報の一つとして「あ、〇〇さんは女性なんだな」と思える。
世間がここまで成長すると、社会における男女の問題は格別に向上するのかなと、
そう感じた。
総理の夫 First Gentleman (実業之日本社文庫)
- 作者: 原田マハ
- 出版社/メーカー: 実業之日本社
- 発売日: 2016/12/03
- メディア: 文庫
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