冲方丁『一二人の死にたい子どもたち』の感想文
冲方丁『一二人の死にたい子どもたち』
今日、紹介するのは実写映画化も決定し注目が集まる、この作品。
『一二人の怒れる男』と『一二人の優しい日本人』という作品がある。
前者は、アメリカの作品で、はじめはテレビドラマとして、その後映画として製作された。
後者は、このアメリカ映画のオマージュで三谷幸喜が脚本を書いた戯曲、同様に映画化もされている。
元となったアメリカ映画『一二人の怒れる男』は、父親殺しの罪に問われた少年の陪審員裁判を描く。
状況は少年に不利で、一人を除いて全員が有罪を主張する。
しかしただ一人少年の無罪を信じる陪審員が疑問を投げかけ議論が進むという作品だ。
もう半世紀以上昔の古い映画だが、映像技術よりも脚本で魅せる名作なので、今なおその価値は色あせてなんかいない。
そして、三谷幸喜によるオマージュ作品『一二人の優しい日本人』
これも、陪審員裁判を描くものだが、舞台は日本。
逆に11人が無罪に票を投じる中で、一人の男だけが有罪を主張する。
論理的な議論がなされるアメリカ映画とは違い、グダグダの議論が展開され有罪無罪はころころ入れ替わる。
「日本人的」な部分が笑えるし、同時に深く心を打つ名作だ。
僕はこの映画の大ファンで、何度見たかわからない。
さて、では今日紹介する小説の話に移ろう。
冲方丁の『一二人の死にたい子どもたち』は、
前述の二つの作品同様に12人の人間が集められて議論するという構図だが、
決定的に違うのが集まった人の種類と集まった動機。
それぞれに問題や悩みを抱えた10代の子どもたちがネットを通じて知り合い、
集団自殺のためにとある廃病院に集まる。
集いに参加した彼らはさっそく集団自殺をしようとするのだが、身元不明の13人目の少年がすでに死んでいるため物語は一変する。
13人目のことは置いといて、自殺するか多数決をとるが、一人の少年だけが自殺を延期し13人目がなぜいるのかを話し合うように求める。
ここまで読んだだけで、「お!!12人の展開だ」と多少興奮を覚える僕がいた。
集まった子どもたちは自殺志願者という重い前提こそあるものの、ここから12人の議論が展開されるのかと期待する。
しかし、集まったのは、日本人でさらには子ども、ちゃんと議論ができるのかと不安にも思う。
ただそこは、病気で自由に体を動かせない生活を送ってきた分、思考力に全振りして育ったという設定の天才少年の活躍で議論は進む。
『一二の優しい日本人』ファンの僕としては、この映画同様、最後は優しいオチがついてみんなで飯でも食いに行こう的な展開が望ましいのだが、
13人目問題を議論する彼らは、その問題については意見が分かれるものの、自身の自殺に対してはなかなか強硬な姿勢を示す。
物語が進むにつれて、13人目問題から発展し、各々の境遇や自殺の理由などにも話は及び、
最初は自分の意見を出さなかった控えめな参加者たちも議論に参加し、話し合いは白熱したものとなる。
基本的には、廃病院の一室で集団自殺志願者の子どもが話し合うだけの物語。
場面も固定され、ともすれば退屈なストーリー進行になりがちな作品だ。
それにも関わらず、読者をひきつけて次から次へと頁をめくらせる作者の冲方丁の筆力は圧巻だし、
『一二人の怒れる男』のベースとなるプロットの構造がいかに優秀なのかを思い知らされる。
先が気になって仕方なくなるタイプの作品なので、ここではこれ以上のネタバレは避けることにしようと思う。
冲方丁の手による「一二人」系統の新たなオマージュ。
少年少女を主役にした本書は、最高のミステリーで、最高のサスペンスで、そして最高の議論だ。
是非、未読の方には本作『一二人の死にたい子どもたち』を手にとっていただきたい。
そして時間があれば、冒頭で紹介した二作の映画も鑑賞することをオススメする。
→今回紹介した『一二人の死にたい子どもたち』の原作文庫。
→『一二人の死にたい子どもたち』のコミック版。
十二人の死にたい子どもたち(1) (アフタヌーンコミックス)
- 作者: 冲方丁,熊倉隆敏
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/11/07
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
→アメリカ映画『一二人の怒れる男』
12人の怒れる男/評決の行方 [AmazonDVDコレクション]
- 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
- 発売日: 2018/03/16
- メディア: DVD
- この商品を含むブログを見る
→三谷映画『一二人の優しい日本人』