東大文学部の読書感想文

東大文学部。好きな本や最近読んだ本の感想を書きます。ニュースや本屋で目にした、本にまつわる気になる事も。

読書感想文

斎藤環『承認をめぐる病』の感想文

斎藤環『承認をめぐるる病』 食べたい、飲みたい、勝ちたい、出世したい、眠りたい、笑いたい、友人と遊びたい、恋人が欲しい… 僕たちは色々な「したい」を抱えて生きている。 僕たちが有する様々な欲求のなかに、「自己承認欲求」というものがある。 自分と…

浅田次郎『蒼穹の昴』の感想文

浅田次郎『蒼穹の昴』 「浅田次郎、読んだことないの?絶対面白いから、『蒼穹の昴』読んでみてよ」 と言われた僕は、 「じゃあ、読んでみますね」 と軽く答えてしまった。 書店で分厚い文庫4巻にも及ぶ大作と知って尻込みしたものの、 後には引けないので…

夏目漱石『三四郎』の感想文

夏目漱石『三四郎』 夏目漱石と初めて出会ったのは中学1年生の頃だ。 最初は、『坊ちゃん』を読んだ。 大衆的で、エンタメとして優れたこの作品はかなり面白かった。 そして、『吾輩は猫である』や『こゝろ』と代表作を読んでみた。 どの作品も素晴らしく、…

蓮見圭一『水曜の朝、午前三時』の感想文

蓮見圭一『水曜の朝、午前三時』 先日、2025年に大阪で万博を開催するというニュースを目にした。 1970年に開催された大阪万博では、「人類の進歩と調和」がテーマだったが、この55年で我々人類はどれほど進歩し、調和を遂げたのだろうか。 もちろん、政治的…

星野源『そして生活はつづく』の感想文

星野源『そして生活はつづく』 今日は、星野源のエッセイ集を紹介しようと思う。 最初に忠告します。 某ドラマの役どころそのままのイメージで星野源を認知していたいという方には、この本あまりおすすめしません。 携帯の料金を払い忘れる話しとか ブラジャ…

鴨志田一『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』の感想文

鴨志田一『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』 2019年の秋は、アニメ好きの20代前半の人間にとっては待望のシーズンだと思う。 僕たちの世代は、深夜アニメの人気が爆発的に拡大する時期に学生時代を送った。 そのため、かなり幅広いタイプの人間…

辻仁成『サヨナライツカ』の感想文

辻仁成『サヨナライツカ』 最近、忙しくて感想文の更新が滞りがちですが、本自体はたくさん読んでいます。 本を読む時間があるなら、数千字の文章を書く時間程度確保できるだろと思われるかもしれない。 電車での移動や、大学の授業間の休み時間などの隙間を…

宮下奈都『羊と鋼の森』の感想文

宮下奈都『羊と鋼の森』 今日の感想文では、二年前の本屋大賞受賞作を紹介しようと思う。 宮下奈都の『羊と鋼の森』は、「師がいて、そこに弟子入りする男の子の話」だ。 高校生の外村が、高校の体育館に置かれたグランドピアノを調律する板鳥の姿を見かける…

石原慎太郎『太陽の季節』の感想文

石原慎太郎『太陽の季節』 平成生まれの人間にとって、石原慎太郎とは都知事である。 石原は、1999年から2012年まで四期に渡り都知事を務めた。 そのため、僕の少年時代に登場する都知事は常に石原慎太郎だった。 物心ついたころからずっとそうだった。 たぶ…

あいみょん『ふたりの世界』の感想文

あいみょん『ふたりの世界』 シンガーソングライターのあいみょん。 兵庫県西宮市生まれの23歳。自分と同年代の若い方が素晴らしい活躍をしていることは純粋に凄いと感動する。友人に勧められて聴き始めたのだが、 最初は「あいみょん」というファンシーな名…

冲方丁『一二人の死にたい子どもたち』の感想文

冲方丁『一二人の死にたい子どもたち』 今日、紹介するのは実写映画化も決定し注目が集まる、この作品。 『一二人の怒れる男』と『一二人の優しい日本人』という作品がある。 前者は、アメリカの作品で、はじめはテレビドラマとして、その後映画として製作さ…

志賀晃『スマホを落としただけなのに』の感想文

志賀晃『スマホを落としただけなのに』 今日、紹介するのは、『スマホを落としただけなのに』という作品。 現在、北川景子さん主演の映画が公開中で、広告を繰り返し見るうちに気づいたら購入していた。 スマホを落としただけなのに (宝島社文庫 『このミス…

海堂尊『チーム・バチスタの栄光』の感想文

海堂尊『チーム・バチスタの栄光』 未知の世界というと宇宙だとか、深海だとか、はたまたジャングルの奥地だとか… そういうものが思い浮かぶ。 でも、僕たちにとっては「病院」というのもそれらに匹敵するくらい未知の世界だ。 風邪をひいたり、ケガをしたり…

佐藤義典『ドリルを売るなら穴を売れ』の感想文

佐藤義典『ドリルを売るなら穴を売れ』 ドリルを買う人が欲しいのは果たしてドリルなのか。 答えは、NO もしかしたら、自宅に様々なドリルを並べて鑑賞するという世にも珍しい趣味の人もいるのかもしれない。 ただ、ドリル購入者の99%以上は、そのドリルで…

中村文則『教団X』の感想文

中村文則『教団X』 この小説の感想を語るのは非常に難しい作業になる。 読み手の評価も極端になりがちだ。 理由は3つある。 まず、「宗教」という難しい題材だから。 そして、性的な描写があまりにも過激だから。 最後に、あまりに思想的な語りの部分が多い…

松崎洋『走れ!T校バスケット部』の感想文

松崎洋『走れ!T校バスケット部』 いまさらだけど、僕は、本が好き。 小説が好き。 でも、漫画も好きだし、アニメも、ドラマも、映画も好き。 要するに、物語の世界が大好きなんですよね。 フィクションを楽しむなかで、一番好きな媒体が小説ってだけ。 映画…

阿川大樹『終電の神様』の感想文

阿川大樹『終電の神様』 帰り道に立ち寄った本屋さんでこの本を目にした。 ちょっとメルヘンチックな表紙に、「終電」と「神様」の文字が躍る。 少し不思議な組み合わせ。 『終電の神様』というタイトルと表紙のイラストに惹かれて試しに購入してみた。 ちな…

うえお久光『紫色のクオリア』の感想文

うえお久光『紫色のクオリア』 今日は、これまで読書感想文を書いてきた小説の中で、 おそらく最も知名度が低い本を紹介しようと思う。 2009年7月に電撃文庫から刊行されたSFライトノベル。 それが、うえお久光の『紫色のクオリア』。 そもそもライトノベル…

太宰治『晩年』の感想文

太宰治『晩年』 夏目漱石の『こころ』 森鴎外の『舞姫』 どちらも、国語の教科書の定番だ。 授業で読んだ、という人も多いはず。 「教科書なんて開いたことない!!」なんて言う不真面目な学生ならともかく、 夏目漱石や森鷗外の文章は多くの人が読んだこと…

見城徹『読書という荒野』の感想文

見城徹『読書という荒野』 見城徹のプロフィール ・編集者 ・大学卒業後、廣済堂出版に入社 ・後に、角川書店に入社し、たくさんのベストセラーを手掛けた →森村誠一『人間の証明』、五木寛之『燃える秋』、つかこうへい『蒲田行進曲』等 ・幻冬舎を創業し、…

井上夢人『魔法使いの弟子たち』の感想文

井上夢人『魔法使いの弟子たち』 井上夢人の『魔法使いの弟子たち』の魅力を語るのに、あまり多くの言葉はいらない。 ただただ面白い。 それがこの本を読んだ僕の正直な感想だ。 感動するとか、学びがあるとか、悩みが解消されるとか、文学的側面でのすばら…

こだま『夫のちんぽが入らない』の感想文

こだま『夫のちんぽが入らない』 「なあ、何読んでるん?」 友人からの無邪気な質問が飛んでくる。 場所は大学のラウンジ。 周りはけっこう人が多い。 友達同士で談笑する人。 スマホを開いて時間を潰す人。 分厚い学術書と格闘する人。 この空間で声高らか…

伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』の感想文

伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』 11月1日の午後。 SNSにどっぷりつかった現代社会の申し子である僕は、 いつも通り、スマホの電源をつけ、青地に白い鳥のアイコンをタップし、画面を指でなぞった。 ルーティンをこなす僕は、友人・知人の他愛ないツイ…

朝井リョウ『何者』の感想文

朝井リョウ『何者』 何者 (新潮文庫) 作者: 朝井リョウ 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2015/06/26 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (24件) を見る 『何者』のキーワードは、就職活動とSNS。 5人のそれぞれ個性的な大学生が、就職活動に挑む様子が描…

高林さわ『バイリンガル』の感想文

高林さわ『バイリンガル』 僕は、これまで読書感想文を書くにあたって、 紹介する本についてネガティブな表現は控えるようにしてきました。 未読の人にとっては、この先の素晴らしい読書体験の阻害になるし、 読んで面白かった!と思っている人にとっては、…

五木寛之『親鸞』の感想文

五木寛之『親鸞』 古い時代の話で、しかも、宗教がテーマ。 読みにくい小説オーラが立ち込める本書。 しかし、意外なことに、読んでみるとスラスラ読める。 月並みに表現だが、読みやすくて面白い。 五木寛之の『親鸞』という小説は、もちろん実在の人物・親…

川村元気『億男』の感想文

川村元気『億男』 弟の借金を肩代わりし、昼夜問わず働いて、「お金の問題」で妻と娘とも別居中。 そんな一男が、宝くじで三億円を当てる。 急に大金が降ってきたことで一男は不安になり、 大学時代の落研仲間で親友の九十九に会いに行く。 実は、九十九は大…

梅田悟司『「言葉にできる」は武器になる。』の感想文

梅田悟司『「言葉にできる」は武器になる。』 突然ですが、問題です。 「バイトするなら、タウンワーク。」 これ何のキャッチコピーか分かりますか? ごめんなさい。 馬鹿にしているわけじゃないんです。 これほど明快なコピーもあまりないですよね。 一応、…

早瀬耕『未必のマクベス』の感想文

早瀬耕『未必のマクベス』 『未必のマクベス』は奇跡の一冊だ。 無名の作家、早瀬耕。 元々、この作家を知っていたという読者は1%もいないだろう。 20年以上前に一度、SF小説を書いただけ。 『未必のマクベス』も刊行当初は全く売れていなかったそうだ。 た…

米澤穂信『王とサーカス』の感想文

米澤穂信『王とサーカス』 これまでに書いてきた、僕の感想文。 なんだか、少し古めの本が多いですね… そこで、たまには、今、本屋で売れている本を題材にしてみようかなと…。 今回は、米澤穂信の『王とサーカス』の感想文です。 先日も『氷菓』の感想を書い…